島根行。
たまプラーザから羽田まで直通バス。自分たちで車を運転し空港の駐車場に停めておくのと迷ったのだが、「あちらでお酒を飲むことになるのでは」という予想から取りやめた。ベイブリッジとかを渡り、みなとみらいを眺め、1時間弱で到着。横浜で早くも観光気分だ。
羽田空港に来たのは初めてのこと。飛行機は約11時発。
乗り込んで座席に就いて、自分の心拍数が明らかに上がっているのが感じられた。これまでは普通に飛んでいたけど、こんなにも飛ぶはずがないという確信を持った人間の乗った飛行機は、おそらくきっと飛ばないだろうと思った。気分を紛らわせようと、用意していた本を鞄から取り出す。さて読もうかと思ったところで、これが自分でもびっくりの天然で、その本が向田邦子であることに気付く。もう狙ったとしか思えない、末期的なブロガーっぽいエピソードなのだが、本当にぜんぜん考えてなかった。普通に「いいな」と思って手に入れていたのだ。大失敗だ。持っていること自体が不吉であるように感じられ、窓から投げ捨てたくなった。
それでもとにかく飛行機は飛んだ。意外だった。
そして予想以上に早い。時速850キロとかアナウンスで言っていた。離陸から上昇が落ち着くまで20分くらいで、それから30分くらいしたら、あとは20分くらいかけて降下して着陸する感じ。
出雲空港に着いたのは正午過ぎ。東京に較べ空気はカラッとしているが、遮るものがないため陽射しがすごい。もちろん快晴なのである。またやはり空が広い。雲の全体像というのを、去年の島根行きぶりに見た気がする。
空港にファルマン一家、両親とファルマンが車で迎えにきてくれていた。親同士はこれが初対面である。スケジュールとしては、このままとりあえずお食事会であるらしい。
お店まで車で移動。道の左手が宍道湖で、助手席に座った僕はそちらに目を奪われていた。宍道湖の上空にぽっかりと入道雲が浮かび、そこを2匹の鷺が飛んでゆく。青空である。圧倒的な光である。なんかもうすさまじすぎる。
食事はよさげな料理屋で。ソフトドリンクになりそうな雰囲気だったので、「空港まで車で来ようかとも思ったんですが、きっとこちらでお酒を飲むことになるだろうと思ってバスにしたんですよ」ということをすかさずアピールして、ビールをゲットした。昼間からビールで美味しい日本海の刺身。しあわせ。運転手の知事が飲めない状況で、知事の分まで瓶2本飲んだ。
ちなみにこの席で母が「不出来な息子ですが……」と言ったところ、知事が「ふでき感激」と言い、これに関してはあとで母が「驚愕した」と告白していた。僕はなんだかんだで耐性がある。
それからまた移動し、次は出雲大社へ。結婚式を出雲大社でする予定なので、その下見である。どうせ島根に行くのなら出雲大社に行きたいが今回そんな時間はないかな、と思っていたので嬉しい。しかし去年と同じで、大社はとんでもない陽射しだった。汗をかけないファルマンは完全にグロッキーで、いま出雲大社は60年にいちどだけ公開されるという特別な奥の間を、期間中の何日間かだけ公開するという期間になっており、たまたま今日がその日だったりしたのだが、とてもじゃないが無理だということで車まで逃げ帰った。母は帰りがけに、姉のための安産祈願のお守りを購入していた。いいね。
結婚式を取り仕切る所にも話を聞いたのだが、どちらにせよ式をするのは来年の3月ぐらいになりそうなので、まだ申し込み可能期間でさえないのだった。のんびりである。
出雲大社をあとにして、ようやく家か、と思いきやまだ周る。今度は海岸。海岸なのだった。車を降りて歩いてゆくファルマンの両親に聞こえないように、ファルマンにボソッと「海岸はいいから早く実家に行かせてもらえないかな……」と思わずぼやいた。
本当にこの時間がいちばんつらかった。大社で汗をかいたことで、お昼のアルコールも時間差で効いてきたらしい。海岸のあとようやく実家へ向かう途上、助手席で眠ってしまった僕だった。ビール飲んで昼寝。彼女の実家に挨拶しに来た男とは思えないリラックス具合である。
実家では1年ぶりに鹿の首がお出迎え。母には話してあったのでそれほど驚かずに済んだようだ。それを仕留めたおじいさまとも対面。挨拶を交わした。
和室に通され、和菓子とかを食べながら歓談。
ここで婚姻届の証人の欄をそれぞれの親に書いてもらいたかったので、その前に改めて挨拶をした。これまで結婚式の下見とかをしといていまさら、という感じもしたけれども。
先週の僕の実家に来た際のファルマンも一応それをやって、その際に「私から唐突には言いにくいから、あなたから話をふってくれ」と言われ、帰る直前に「ぱぴこから話があるみたいだよ」とふったところ、「うわのそら」に「なんて不器用な振り方だ」みたいなことを書かれムカついていたので、今度は「お返しにあなたが話をふるように」と厳命した。その結果のファルマンのふり方が、場の会話が途切れた瞬間に、「ぱぴろー、ぱぴろー」と僕の名前を連呼する、というもので、もはや不器用とかじゃなくてぜんぜん用を成していなかった。
そんでもって婚姻届を書いてもらったりしていたら、そろそろ帰りの時刻に近づいていた。帰りの飛行機は20時前ぐらいの出発で、つまり島根での滞在時間は8時間弱ぐらいなのだった。でも感じとしては割とのんびりとできた。日帰り島根旅行ってけっこう可能だ。
ふたたび出雲空港に向かう途中で、僕のたっての希望で次女がアルバイトするドラッグストアに寄ってもらう。夕方からバイトだったため僕らが実家に辿り着いたときにはもういなく、せっかく島根まで来たのだからひと目会っておきたいと思ったのだ。母とファルマンと3人で店に潜入。レジをしていた次女とすぐに目が合い、驚かれた。これにて悔いなし。
出雲空港へ。空港内のおみやげ屋で職場へのみやげを買い、知事から日本酒をプレゼントしてもらう。飛行機の時間になるまでレストランで軽く夕食。ここで出雲そばを食べる。
出雲そばに関してはその前にちょっと気まずいことがあった。ファルマンから、「ぱぴろうは出雲そばがあまり好きではない」ということが両親に伝わっていて、これには語弊があり、別に好きでなくはないのだが、名物にするほどどう、ということもなくて、要するに「まあ蕎麦だなあ」というそのくらいの気持ちだったのだが、知事によれば「それは去年食べた店が悪かったんだ」ということで、出雲大社近くの店を指し示され、「美味しいのはこの店。この店の出雲そばを美味しくないって言うんだったらもう紹介する店がないわ」みたいなことを言われたのだが、「……ごめんなさい、去年食べたのこの店です」という、まあそんな感じのエピソードである。
そしてそのレストランで食べた出雲そばはやはり、「まあ蕎麦だなあ」という感じの味だった。やはり今後もそばはもう諦めてもらって、日本海の幸的なものを期待したいと思う。
そして飛行機、バスでたまプラーザ、タクシーで帰宅。帰宅は23時前。
そんな風にして出雲行きはおしまい。愉しかったし、あんまりヘトヘトとかにもならなかったのでスポーティに満足できた。とりあえずこれで無事に籍も入れられるので、結婚式まで面倒くさいことはないな。よしよし。