勤務地が新しくなったので、そこでの同僚たちから「どんな本を読むの?」と訊かれるのだけど、なんにも答えられない自分がいる。しょうがないので、「『天然生活』とか、『暮しの手帖』とか……そんなとこです、うへへ」などと適当にごまかしている。もっとも僕が純粋理性批判を全冊コンプリートしていることは、前の勤務地の人間からゆるやかに漏れ伝わっているらしいのだけど、ここで「『おしかけメイド隊』です」とか答えても仕方ないのでもちろん答えない。
しかし質問されて気付き、ハッとしたのだけど、僕は近ごろ本当に本を読まないことだ。ここ数ヶ月この日記にぜんぜん読んだ本の感想が書かれないのは、そういうのを書かない方針にしたからでは決してなくて、実際にまるで読んでいないからに他ならない。もちろん純粋理性批判と社会契約論を除いてだけど(そしてその感想は基本的に書かない方針)。
でもそれに関し、「読まなきゃなあ……」みたいな気持ちはぜんぜん抱いていない。あまりに読まなくなりすぎたせいか、こんな状況になったはじめのうちはそんな風にも思っていたけど、だんだんと気持ちが発酵してきたのか、「読まなきゃなあ……」が「まあ読まなくてもいいか」になり、最近では「読むのとかどうかと思う」とまで思うようになってきた。
だって労働とかして、自分の時間が限られるなかで、人の作ったものなんか味わってる暇はぜんぜんないと思う。考えたり、書いたり、描いたり、縫ったり、僕には自分のやりたいことがいっぱいあるのだ。よく上達のコツで、「人の作品を見ることです」なんてアドバイスがあるけど、あれは嘘っぱちだと思う。人の作品を見れば見るほど、自分のやりたいことは薄ぼんやりしてゆくし、なにより取り組む時間が減る。やりたいことがある人は、自分のことだけしていればいいのだと思う。