2009.12.27

 帰宅すると注文した本棚が届いていた。ただし客組み立てなので段ボールの状態。行きも帰りもリュックの中に本を10冊入れた状態で、片道30分くらい自転車を漕ぐという重労働をしたあとだったが、仕方ないので組み立てはじめる。割と面倒くさかった。ふたつ注文して、ひとつは1万円ちょい、ひとつは5000円という安物のため、それほど頑丈なものを想定していなかったのだが、これが意外としっかりしている。さすがはお値段以上だ。
 特にリビングに置く用の本棚は大きく、作るのに骨が折れた。しかも判っていたことだがファルマンが不器用だ。ネジをまっすぐ挿れられないので、30本以上あるすべてのネジを僕が嵌めなければならなかった。おかげで右手がひどく疲弊した。
 続いて純粋理性批判用の、スライド式の文庫専用棚に取り掛かる。巨大なものを組み立てたあとだったので、こちらは割と楽にできた。ファルマンが出来上がった本棚に本を並べる作業に没頭してしまったため、ひとりでやった。なにしろ純粋理性批判専用本棚なのでしょうがない。
 組み立ててみるとこちらの本棚も思っていたより大きく、置こうとしていた場所には適さなそうなほどだった。それで改めてリビングに設置する要望を妻に申し入れる。当然ながらファルマンは猛反発である。でも僕も引くわけにはいかない。パソコンデスクのすぐ横に純粋理性批判全巻が番号順に並んでいる夢のような状況を、そう簡単にあきらめるわけにはいかないのだ。そんなわけで言葉の限りを尽くして交渉。最終的には土下座までした。これは今日全国で行なわれた土下座のうち、いちばん価値のない土下座だったに違いない。夫からエロ小説専用本棚をリビングに設置することを土下座して懇願された妻は、苦渋の決断を下すほかなかった。あまりにも情けない夫の姿を、そう長い時間見てもいられなかったのだろう。
 かくして夢が叶う。願えば夢は叶うんだ。僕は君たちにそのことを知っていてもらいたい。土下座とかすると、夢は割と叶うんだぜ。課外授業ようこそ先輩。今日はシャノマトペについてみんなで勉強しよう。発育のいい子はもう来ているよね?
 それでファルマンの気が変わらないうちにいそいそと、冷遇されていた文庫たちを別室から持ってくる。現在のところ全144冊。両手で山を抱えて運ぶのを、5往復ほど繰り返す。そして持ってきた全巻を、番号順に並べ替える。番号順に並べると歴史的な変遷とかが明瞭になって、新しい発見がある。愉しい愉しい。この愉しい作業をしている最中、にわかにファルマンに写真を撮られる。そして「ほら、これがいまのあなたなんだよ」と、撮った写真を見せられた。そこにはピンク色をした144冊の文庫本の山に囲まれて、しあわせそうな笑みを浮かべる26歳の姿が写し出されていたのだった。はははっ、と思った。こんなことくらいでテンションが下がると見くびられては困る。むしろ誇らしい。2枚目はちゃんとピースをして記念撮影だ。ひゃっほい。すっかり番号順に並べた文庫たちを、ガスガスと棚に収めてゆく。さすがは約300冊収納。144冊でほぼ半分しか使わない。ついでにいくらか持っている社会契約論と、文庫と言えばこれだろうということで「製本KUCHIBASHI DIARY」5巻も並べる。純粋理性批判と、社会契約論と、自分の日記! うわあ! なんだろうこの幸福! 夢は時間を裏切らない! 時間も夢を裏切らない!
 144冊の背表紙が並んでいる様子を、この文章を打っている今もなのだけど、僕はぼんやりずっと見ていられる。それぞれの内容を少しずつ思い出しながら、ただいつまでもボーっと眺め続けられる。いつまでも飽きない。絵画とか仏像とか、見所が分かってる人って長時間ずっと鑑賞したりするけど、まさにその感じだと思う。