2009.8.8

 結婚1周年だった。もう1年経ったか。新婚期間というのは一般的に1年間だろうか。そもそもこれまでが新婚期間だったのかと考えると怪しい。ただしこの1年で僕らはさらに、互いに交友関係を狭め、互いへの依存度が上がったことは間違いない。愛し合ってるとか、ラブラブとか、そういうんじゃ決してなくて、本当に話し相手がお互いしかいない感じ。研ぎ澄まされてるな、という感触がある。触れたら痛みもなく肉が斬れてしまうような。まあこれがいわゆる夫婦の空気というやつかもしれない。だとすれば僕らというのは割と順当な夫婦なのかもしれないと思う。
 1周年で、しかもファルマンは明日からひと足早く帰省するということもあり、出掛けた。
 まず行ったのは久々の阿佐ヶ谷。なんかちょうど七夕祭り的なことをしているとのことで行ってみた。そうしたらすごい人だった。商店街がそのまま出店のようになっていて、いろいろなものを売っていた(フランクフルトが異様に多かったけど)。遅めの朝食しか食べていない午後1時過ぎ、という状態だったのでなにか食べたいような気もしたが、美味しいはずもないだろうパックの焼きそばが350円とか言われると、あまり触手が伸びなかった。長い商店街を、ほぼ端から端まで往復し、祭り的な雰囲気を存分に浴び、満足し、阿佐ヶ谷を辞す。
 次に行ったのは吉祥寺。ここではさすがに確実に空腹だったので、ちゃんと食べる。ラーメン屋。なんか昨日からやけにチャーシュー麺が食べたかったので、とんこつチャーシュー麺なんていう重量系のメニューを頼んでしまう。期待したほどじゃなかったけどまあ美味しかった。しかしここで、祭りのときから異変には気が付いていたけれど、ファルマンの精神が限界になり、その態度の悪さに僕の限界も来て、喧嘩となる。祭りの喧騒や、頼んだ炒飯のおいしくなさ、使用したトイレの汚さなどについて怨嗟の言葉をぶつぶつと呟くので、お前は本当に気持ちがよくない人間だ! と叱った。なんともひどい結婚1周年であると思う。
 互いにすっかり機嫌を損ねて店を出ると、雲行きがとんでもなく怪しい。今にも雨が降り出しそうだ。これはまずい。まあ大丈夫だろうということで、洗濯物をベランダに干したまま出てきてしまったからだ。ファルマンは肉体も精神も優れないこともあり「帰りたい」と主張し、僕はせっかく吉祥寺まで来てラーメンだけ食べて帰るのかと主張し、それから、じゃあ私は帰るからひとりで買い物しなさいよ、とか、結婚記念日になに言ってんだ、とか、じゃあもういいよ買い物しようよ、とか、こんな状態(互いの機嫌、体調、天候)で買い物なんかできるはずないだろ、とか、じゃああなただけ帰って洗濯物を取り込んでよ私は買い物するから、とか、それいちばん意味わかんねえよ、とか、まあいろいろあって、でもしょうがないので一緒に帰った。結果的に、吉祥寺にラーメンを食べるためだけに来てしまった。高いラーメンだこと。
 割とむすっとしたまま最寄り駅に到着し、ファルマンが「私が払うから」と言ってタクシーに乗り込んだ。ここでタクシーの運転手がいきなりしゃべり始め、
「いやあ、お客さん、私さっき、いま籍を入れてきたばかり、っていうカップルを乗せたんですよ」
 とか嬉しそうに言う。あまりの絶妙なタイミングに、なんか気が抜けた。僕は、<ここで「実は僕らはちょうど1周年のデートだったんですよ」とか言ったら、この運転手は今日1日すごくハッピーになるんだろうな>と思ったのであえて言わず、
「……ああ、ゾロ目ですもんねぇ」
 とだけ答えた。もちろんファルマンがタクシー運転手に向かって目的地以外の言葉を発せられるはずもなく、そのままタクシーを降りた。相手が明らかに喜ぶだろうことをしゃべらず、ふたりしてハッピーな輪っかに加わろうとしないこの姿勢が、1周年を迎えた僕ら夫婦の姿を如実に示しているな、と思った。そういう1周年だった。
 そのあとはなんかどっちらけな感じになり、仲直りして、一緒にスーパーに買い物に行き、お鮨とか買ってきて食べた。おいしかった。
 そして明日からはファルマンが帰省してしまう。3日間ひとりだ。ひどい。ひとり暮らしって本当に意味が分からない。いったいどうすればいいのだろう。途方に暮れる。