10時過ぎに起きる。10時間近く寝たことになるか。さすがに身体は割とすっきりしていた。昨日買っておいたゼリーや、ファルマンの作ってくれていたお粥などを食べる。
食べていたところ仕事中のファルマンからメールが届き、「熱を測れ」と言うので測った。だいぶ楽になっている感触があったので楽観視していたら、また38度と出る。えっ、38度ってこんなに割とすっきりしてるもの? もっとクラクラするんじゃないの? と疑問に思うものの、おそるおそるファルマンに報告する。したところすぐに電話が掛かってきて、「パソコンのアドレスに病院のアドレス送ったから午前中の診察時間中にすぐ行きなさい」と命じられる。
38度で午後から労働と来ればまあ行かないわけにはいかない。家から自転車で3分ほどの場所にある、小さな内科医院にすぐに向かった。
窓口に保険証を出し、「熱があって風邪っぽいです」と伝えると、体温計を差し出される。待合室の椅子に座って体温計を脇の下に挟み1分弱。ピピッと電子音が鳴って引き出してみたところ、表示体温が36.7度とあった。昨日とは別の意味で、思わずめまいがした。
実は昨日の夜から薄々と疑ってはいたのだ。基礎体温計って普通に風邪かどうか調べる感じの体温測定で使っていいのかな、って。もうちょっと冷静になるべきだった。
平日の午前11時に36.7度の体温計を窓口の看護婦さんの所に持ってゆく25歳の男の子の気持ちって想像できるだろうか。世の中にはまだ名前がついてない感情がいっぱいある。
でも保険証を提出してしまった以上は診察を受けないわけにはいかない。名前を呼ばれて診察室に入ったら真面目そうな壮年のお医者さんがいて、「どうしました?」という質問に、「熱が昨日の夜から38度くらいありまして……(今はすっかり下がったっぽいんですけど)」と答える。もちろんそれが基礎体温計での計測だったことは言わない。言えやしなかった。
38度と言った瞬間にお医者さんの目つきが変わり、「さいきん関西とかカナダのほうに旅行されたりしましたか?」と訊ねられる。他人事で聞いていたインフルエンザのニュースが、こんな風にリアルに自分の生活に関わってくるとは思ってもみなかった。もっとも関西にもカナダにも行ってないが、小売業にしてみれば(そんなのぜったい関係ねえよ)と思わざるを得なかった。
そのままインフルエンザの検査になり、鼻の穴に棒を突っ込まれ、鋭角のマスク(あんな悪趣味なもの絶対に一生着けまいと誓いを立てていた)を渡され、「それを着けて結果が出るまで待っててください」と言われる。36.7度だったのに!
10分ほどして再び名前を呼ばれ診察室に行ったら、検査結果はもちろん陰性で、しかしお医者さんは「しかし38度……ううむ」と唸り、「あるいは肺炎かもしれません」ということになり、今度はレントゲンを撮られる。なんだか大事になっちゃったなあ。そして待合室でレントゲンの現像を待ち、みたび診察室へ。「肺炎の兆候はありませんねえ……」知っている。結局僕は昨日ちょっと発熱(たぶん37.2度くらい)し、ひと晩ぐっすり寝て、ただの治った人だったのだ。
お医者さんから「またなにか異常が出たらすぐに来てくださいね」と言われ、そこでようやく解放される。熱と胃腸の薬が出され、診察料は2660円。2660円! インフルエンザの検査してレントゲン撮ったからしょうがないとは言え2660円! 36.7度なのに! 2660円って言ったらいいお米が買える値段じゃないか。へこむ。
帰宅したら12時を過ぎていて、ファルマンは昼休みだろうから電話する。顛末を報告したら笑っていた。笑いごとじゃないけど。こっちは2660円払ってるし。そのあと労働に出た。