周期的に頭をよぎる疑念なのだが、「なんか前髪に勢いがなくなっている気がする!」、という今まさにその時期だ。禿げの恐怖。死んでゆく哀しみ。信じ抜く心。哀しみの初恋。繋がらない電話。滴る肉汁。みんなの心がひとつになったオリエンテーリング。
ちょっと前に照明写真を撮る機械の前を通りがかったとき、どうやら今から撮影しようとしているらしい中年男性が、外壁に備え付けられた鏡で髪の毛を整えているのを目にしたのだが、彼は頭頂部から禿げてきているパターンで、顕著な所ではもう完全に肌色が見えてしまっていて、そこに髪を整えるべく這わされた手が触れていて、その様子を見て僕は、「髪を整えようと手を伸ばして、頭頂部に髪の毛がなくて、指の皮膚と頭頂部の皮膚が、しとっと触れ合ってしまう感触って、いったいどのような感じなのだろうか」と思い、自分に置き換えて想像してみて、恐怖に打ち震えた、という出来事があった。
禿げの恐怖というのは本当にすさまじいものがあると思う。おなじ夕焼けにしたところで、一般人のそれと禿げのそれではぜんぜん価値が変わってくると思う。
そんなわけで、どうしよう禿げたら、ということをファルマンに相談すると、「なんか頭皮の脂を取る、みたいなやつをやればいいんじゃない。CMでやっとるやつみたいな」みたいな返答があるのだが、これはいかにも禿げる心配のない女性の意見だな、と思う。
そもそも脂を取ることが髪の毛にいい、なんて理屈はぜんぜんないと思う。むしろ逆だとさえ思っている。シャンプーなんてなるべくしないほうが髪の毛が丈夫になる、と固く信じている。脂を取って清潔で毛根の血のめぐりもよくなってグングン伸びます、というのはいかにもそれっぽくて、なので逆に信用がならないと思う。放っとくのがいちばんでは企業が困るのだ。
それと毛根に刺激を与える系のものは、女の子がSTのときに、「飲み過ぎると本当につらいときに効かなくなるから」という理由でなるべくバファリンを飲まずに耐えるのと一緒で、いざというときのために取っておこうと思っている。20代のうちから使うべき、とかいう文言は完全に企業側の思惑であると思う。
そんなわけで結果的に僕は髪の毛に対し、手付かずという姿勢を今後も貫いてゆくのだろうなと思う。まあ禿げたらあれです、カツラをかぶればいいのだと思います。