2008.6.17


     卒業旅行

 箱根に行こうか伊豆に行こうか。リツコは関西の芸術系の大学に行くし、メグミは春から実家の手伝いをするし、私も地元の短大に進学するから、春からはみんなバラバラだね。でもこの3年間、ホントにホントに愉しかったよ。ふたりと親友でよかった。そんなふたりと、最後にもうひとつだけ思い出作り。温泉入って、浴衣とか着て、お布団並べて、そこでずっとおしゃべりするんだ――。

 をとめごら卒業旅行の切符買ふ   近藤虹十字
 願わくばパンチラ卒業旅行哉     吉田傀儡太
 卒業より逃れるための旅行かな    手嶋歌子



     卒業式

 わあ、もう海が見えてきた。あっという間だねー。あーワクワクするー。メグミったら、この旅行じゃ卒業式のときみたいに泣かないでよ。なにそれー、ウチそんな泣いてないよ。って言うかリツコのほうが泣いてたじゃん。なに言ってんの、メグミひどかったよ。ウソだー。ねえねえミカ、ウチとリツコ、どっちのほうが泣いてたと思う? ――え? あ、ごめん、ちょっとボーッとしてた。もー、ミカったら卒業式のときからそんな感じなんだから。まあまあリツコ、そのためにこの旅行があるんだから――。バカ! それは内緒でしょ! あっ、ごめん! ……???

 卒業式夏の放課後をとめごら      嘴亭萌え狼
 卒業式祖父の遺影の舞い上がり    ありがとう代々木
 あるほどのスカート脱げよ卒業式   金沢一



     混浴

 高3の卒業旅行なんて、きっと実際すごくふしだらなんだろうな、と思う。絶対に別グループで男子も一緒の旅館だと思う。それはメグミと、メグミの彼氏のハルオが画策してのこと。だってユウスケはずっとミカのことが好きで、ミカもずっとユウスケのこと好きだったのに、ユウスケの双子の弟のコウスケに気を遣って、お互いの気持ちを隠したままなんておかしいよ。だってコウスケはもう2年も前に、1年生の春に死んだんだよ。もうコウスケだって許してくれるよ。ほらミカ、ユウスケとこのまま離れ離れになってもいいの? えっ、離れ離れって――? ミカやっぱり知らなかったんだ。ユウスケの奴、そんなことまで隠してたんだね。あのねミカ、落ち着いて聞いて。ユウスケ、春になったら世界中の貧困地域を巡って、恵まれない子どもたちを支援する活動を始めるつもりなんだよ。う、うそっ……。だからウチとハルオで、この旅行を計画したの。隠しててごめんね。だって教えたらふたりとも、来てくれないと思ったんだもん。ホントに依怙地でじれったいんだから。メグミ、わたしたちのために……えっ、じゃあリツコもグル? (コクリ)。そりゃあ一時期わたしはユウスケくんのこと好きだった時期もあったけど、ミカとユウスケくんの愛の前には完敗。あのね、知ってる? ユウスケくんったら、わたしとのデート中に、わたしのこと何度も「ミカ」って呼んでたんだよ。だから絶対に、ふたりはしあわせにならくちゃ承知しないんだからっ。……リツコ、ごめん。やだ、謝らないでよ、謝られたら、私がみじめになっちゃうじゃない。…………ごめん。ほらまたー。ふふふ。あはは。ほらほら、ミカとリツコの美しい友情はそのへんにして。夜はまだまだ長いけど、3年間の募る思いをぶちまけるには、ちょっぴり短すぎるんじゃない? 急ぎなよ、ミカ。……うん! わたし、伝えてくる。この3年間、ううん、もっとずっとずっと前から、ユウスケのこと好きだったってこと! ちょっと待った、ミカ! 忘れもの忘れもの。……これって? 見ての通り、浴衣だよ。なんで浴衣? だってミカ、これから温泉に入るでしょう。だったら浴衣持っていかないと。えっ、だって私はユウスケと、……えっ、えっ、えーーーっ! 3年間の募る思いってそういうことぉ!? まっ、待って待って! そんな、まだ、ぜんぜん、心の準備ができてないよ! ホラホラ、ごちゃごちゃ言わずに行った行った。人は私たちで止めとくからさ。ユウスケとゆっくりしてくればいいよ。だ・け・ど――くれぐれものぼせすぎないようにね。キャハハハハハ。も、も、もぉーー、メグミとリツコの意地悪ー!

 をとめごの混浴やがて島となる      斉藤ワッフル
 セックスが混浴の奥に立ってゐた    田村泡の助
 いまわたし二重の意味で混浴です    おむすび三太