2008.5.2

 ファルマンがいないと手持ち無沙汰だ。別にいつでもファルマンの耳たぶをいじってるとかじゃないけど、しかしひとりだとどうしたって夜がダラダラと長い。
 しょうがないので小雨のパラつく中、ずいぶんと久し振りにクラブなんぞに出向いてしまう。某街の某所にある某という名前のクラブ。10代のころはタダ酒目当てにずいぶん通い詰めた、ある意味で俺の故郷って言ってもいいかもしれない場所。いいことも悪いことも、いや、ここではそんな大人たちが勝手につけた善悪の区切りなんかどうでもいいんだ、とにもかくにも人生のすべてを俺はここで学んだといっても大袈裟じゃない。悪い奴らだいたい友達。
 入り口の扉を通った瞬間に、音の洪水が鼓膜を揺らす。ああそうだ、この感覚。とにもかくにも懐かしいぜ。ほら見ろよ、この薬指。ハハ、自然とリズム取っていやがる。
 俺は今にもブレイクダンスをぶちかましそうな薬指をなんとかなだめながら、とにもかくにもアルコールを確保する。このブラッキーな世界で牙を剥く、俺みたいな真っ赤な原色のこれ。名前? 名前なんか知らねえよ。大人たちが勝手に付けた名前なんかどうでもいいんだ、とにもかくにもそれを一気に飲み干した。
 ピュオーオ。
 すぐ近くから口笛が鳴った。振り返ってみるとやっぱり奴だ。髪をおっ立てて、相変わらずロックっぽい感じの、とにもかくにもオシャレなファッションをしてやがる。顔を合わせればすぐにファイトを開始していた過去と違って、いま俺らの間に交わされるのは、握った拳の代わりに照れ笑いだ。分かってるぜ、若気の至りってやつは、誰にだってある。そしてその恥ずい時期を共有できたのがお前だったこと、俺は決して後悔してないんだ。
「よお」
 俺は薬指を震わせながら右手を上げてみせた。
「ずいぶんと」奴も右手を上げる。さらにそれを狐にしてみせた。「久し振りじゃねえか」
「ファルマンが島根に帰っちまっててよ」
「なるほどな(ワラ」
 変わらねえ。こいつの頬には漢字の「器」みたいな傷があるのだが、笑うとその4つの四角がふたつになるというか、ひしゃげた感じになって、全体的にあんまり四角っぽくなくる感じが、とにもかくにもぜんぜん変わってねえ。
 そのことに安心しちまう自分がいて、なんか嫌な気分になっちまった。あの頃の俺は、むしろなにも変わらねえことにイライラしてた。それがどうだ、いまは変わってねえところばかりを必死に探しちまってる。嫌な気分だ。でも決して嫌な気分じゃない。とにもかくにもだ。
「なあおい、知ってるか?」俺はこいつに問うてみることにした。「このクラブ、あの頃とは営業方針が変わってよ、俺とお前が一緒に踊ってもいいらしいぜ」
「ああ知ってるぜ。今夜がこのクラブで初めての、東西横綱揃い踏みの夜になるってことをな!」
 そう言うとあいつは、自分の震える中指を俺に見せ付けてきた。