ひいひいおじいちゃんが亡くなりました。ショックです。
お母さんは、102歳の大往生なんだからむしろお祝いしてあげなきゃダメよって言うんだけど、まひろはまだぜんぜんそういう風には思えない。今でも瞼を閉じると、ひいひいおじいちゃんの笑顔が浮かんできて、まひろはえもいわれぬ気持ちになる。
ひいひいおじいちゃんとまひろの結びつきは、やっぱりなんと言っても学年題俳句。まひろの学年題俳句の先生は、ひいひいおじいちゃんだったから。最近まひろは部活が忙しくってあんまり作れてないけど、それでもひいひいおじいちゃんが口にした句を紙に書き写すのは、毎晩まひろの役目だったんだよ。
まひろがいちばん好きなひいひいおじいちゃんの句はこれ。
『かつて乳輪は目測で長さを計る基準になっていたんだよ』
はじめはまひろ、これが句だってことに気付かなくって、なんかひいひいおじいちゃん、いきなり昔の人々の暮らしの知恵を披露してくれたんだな、ってただ思ってたんだけど、そうしたらいきなり「メモれ」って言われて、そこでやっと、ああこれ俳句なんだ、って判ったの。でもその時点でもうまひろの頭の中には、江戸時代の町人が奥さんの乳輪を使って障子の紙の寸法とかを測る図がすっかり浮かんでたから、やっぱりそういう意味でこの句がいちばん印象に残ってる。
ひいひいおじいちゃん、きっとまだまだ学年題俳句やりたかったんだろうな。だけどきっと今は天国――ううん、天国とはなんか別のどこか、乳輪を使ってものの長さを測る世界で、ひいひいおじいちゃんは愉しく暮らしてるんだ、って、そうだったらいいな、って思うんだ。ひいひいおじいちゃん、まひろ、あの時は恐怖のあまり答えることができなかったけど、まひろの乳輪は約2,7センチメートルだよ。
まひろ思うんだ。これからはひいひいおじいちゃんの分まで、まひろが学年題俳句をがんばってゆこう、って。高1のまひろが学年題俳句を作ると、破皮狼さんが言うにはどうしても「萌え光線逆照射現象」っていうのが起こってしまうらしくって、それを気にしてあんまり作る気持ちになれなかったんだけど、でもひいひいおじいちゃんが死んだことを通して思ったの。そんなこと言ってる場合じゃないんだ、って。人生は長くて短いんだよ。だから一瞬一瞬を力いっぱい生きていかなくちゃいけない。高1のまひろには、高1のまひろにしか作れない、高2の学年題俳句があるんだと思う。
そうだよね、ひいひいおじいちゃん。
まだひいひいおじいちゃんの名前は継げないけど、まひろはずっとひいひいおじいちゃん――ううん、おむすび三太っていう俳人のこと、忘れないよ。
ありがとう、そしてさようなら。ひいひいおじいちゃん。