2008.1.3


     恋に恋      (学年題俳句1000詠57番)
 
 周囲の雰囲気やイメージなど表面的な部分で好きという錯覚を抱いているだけの擬似的な恋のことである、という解釈がこれまで一般的だったが、最近になって10代前半のアイドルの台頭の影響か、自分の性別を意識しない言わば女も男も超越した視点からの天使的な恋愛感情であり、ここにこそ究極の恋が潜んでいると考える向きも出てきた。ちなみに学年題俳句の世界では、それが恋なのかあるいは恋に恋なのかというのは、初潮前か後かということで考える決まりになっているため、この学年題で詠まれる少女は自動的に初潮前の中学1年生だということが導き出せる。
 
 恋に恋それもひとつの恋の恋  吉田傀儡太
 来年も恋に恋して会いに来い  近藤虹十字
 恋に恋夏の放課後をとめごら  嘴亭萌え狼


     ケチンボ
 
 中学1年生は少女が肉体的に最も変化する時期だから、裏を返せばその時の少女は常に供給に追われている。供給しても供給しても不足分が生まれる。それは深い友情だったり、気になるアイツとの接触だったり、お風呂上がりの肌のケア情報だったり、チョコレートだったり、服を買うお金だったり。まだなかなか調子が一定にならない月経のせいもあって、充足している瞬間というのがない。胸のもやもやした気持ちに、思わず神様を恨みたくなる。
 
 遊園地ケチンボ スリル足りないよ   夏原深雪
 先輩が触ってくれないケチンボだ   田村泡の助
 ケチンボな神様 天使はもう卒業   布沼昇


     ココア      (学年題俳句1000詠93番)
 
 給食で出される牛乳は小学生の象徴で、高校生はカフェでキャラメルマキアートとかを飲み、中学の上級生たちがカフェオレを飲むのだとすれば、結果的に中学1年生の飲み物としてココアが拠出されてくるのは自然である。試験勉強の夜、1コ上のお姉ちゃんがいつもよりちょっと濃いめに入れたカフェオレを飲む横で、1年生の妹の飲むココア。甘いけど苦い、苦いけど甘い不思議な味。女の子はシュガー&スパイス。
 
 ふうふうとココアを撫ぜる吐息哉  田村泡の助
 xの値がココアだといいな       嘴亭萌え狼
 お母さん黒豆ココア買ってきた   手嶋歌子