2007.5.2

 ところで数日前に「2日の夜そっち泊まるから」と母にメールしたところ、「昨日から飼い犬が逃げて行方不明だ」という返信が来て驚いていた。
 「見つかったらすぐに連絡して」と言っておいたものの一向に連絡がなく心配していたところ、ちょうどこの日の昼間ごろに彼はひょっこりと帰ってきたのだった。
 どこに行っていたのかはまるで分からない。4日間の謎の放浪だった。まあ5年以上もう飼い慣らされているとは言え出自は山梨の雑種野良犬なので、サバイバルはお手の物なのかもしれない。なにより人を咬んで事件になるようなことがなかったことは大いに喜ばしい。そしてせっかく泊まりで帰ったのに母と祖母が犬の心配ばかりしていて家がひどく重たい空気だ、というようなことにならなくて僕としては実に助かった。
 もっとも祖母は犬が逃げたことそのものに関して勝手に責任を感じていて、「私が普段からすごく怒るから逃げてしまったんだと思うの……」としきりに言い、「散歩中にやけに草を食べようとするから、道草喰うなっていつも怒ってたから……」と何度もウダウダと言っていた。この道の草を喰う犬に対しての「道草喰うな」というのは祖母の自信ネタらしく、近隣の方々への見つかった報告電話の際にも必ずと言っていいほど織り交ぜていたのだが、ぜんぜんおもしろくない。
 おもしろいと言えばこの話で僕がいちばんおもしろいと思ったのは、はじめに連絡を入れた際にもたらされた行方不明の報を恋人にも話したのだが、それを聞いての恋人の一言だ。
 
 「えっ。大丈夫なのかな……。ほかの動物に食べられたりしちゃってないかな」
 
 信じられない発想法だと思った。
 でも島根県にいて祖父が猟師で玄関に鹿の首がある彼女にとってそれは冗談でもなんでもない発言なのらしかった(でも島根県の人が聞いたら怒るかもしれない)。幸いなことに横浜市ではその心配はない。日常にいる最も大きな生きものは、おそらく犬に他ならない。
 期せずして恋人の日記で犬が草を喰っている。そしてなにその写真の大自然。
 彼女は続けて「お母さんすごく気を落としてない?」と心配してきたので、「大丈夫。今の言葉を話して元気づけとく」と応じた。そして母大爆笑。